もくじ

榎本亮冴
今回は、家族信託がどのような時に役立つのか、どのような効果があるのかを解説させていただきます。ご家族の構成や実現したい内容で信託の細かな内容は変わりますが、一般的なケースについて取り上げていますので、是非参考にしてみてください。
家族信託の2つ大きな仕組み
財産管理という仕組み
まず、家族信託には、2つ大きな仕組みがあります。1つは、財産管理という仕組みです。認知症や体力の低下後で、適切な財産管理が難しくなってしまっても、例えば、子や孫に預貯金や自宅、アパートの管理を託しておけば、成年後見制度を利用することなく、比較的自由に活用することができます。
財産を引き継がせることできるという仕組み
もう一つは、財産を引き継がせることできるという仕組みです。遺言と同じように、指定した人に財産を引き継がせることが、信託では可能です。例えば、母親に一旦引き継いだ自宅を、長男に引き継いでもらうといった、2代、3代先まで、財産の行先を決めることが信託の特徴です。

基本的にこの2つの仕組みを利用して、家族信託は色々な局面で活用されていますので、事例とともに解説します。
認知症の対策として利用
家族信託が最も活用されるケースとして、認知症の対策として利用されることが上げられます。認知症が進行しますと、コミュニケーションが難しくなる結果、あらゆる契約ができなくなります。

将来的に財産が動かせなくなるのは心配になりますし、成年後見制度を利用したくないということこともありますので、事前の対策に家族信託を利用しておくケースは多くあります。成年後見制度についてはこちらの動画でも解説しています。
例えば、両親AB子CDのような家族構成で、Aには自宅、経営アパートと預金があるとします。Aは高齢で認知症の症状も強まっている状況ということであれば、将来的にAの預金口座からお金が引き出せなくなったり、アパートや自宅の管理が行えないなどの、色々と不自由なことが起こりえます。
そこで成年後見制度を利用せず、事前の対策として、アパートや預金の管理を子Cに託しておく家族信託の利用が考えられます。Aの判断能力が低下しても、Cにアパートや預金の管理を託しておくことで、Cの判断で預金や自宅の管理をスムーズに行うことできます。
例えば、自宅が空き家になったら売却して、施設費用に充てることや、預貯金から生活を支払うということが、Cの判断で行えるようになります。AがCに財産の管理を託す。これが家族信託の仕組みです。

そして、A亡き後は、例えば、Bには自宅、CDには残っていた現金を平等に相続するように、家族信託で初めに決めておくこともできます。このように、Cが管理していた財産の最終的な引き継ぎ先を、初めに決めておくことで、遺言と同じことを実現することができています。

遺言は、法律上何度でも書き換えることができますので、相続が開始するまで、遺言の内容が実現するかは未確定ということができます。一方で、信託した財産に関しては、遺言に優先して内容が実現される点や、内容の変更を制限することが可能ですので、より確実な財産の引継ぎが可能です。これが家族信託の財産引き続ぎの仕組みです。

遺産分割の生前合意を可能にする
2つ目に、信託は、通常は行えない遺産分割の生前合意を可能にします。
同様の事例で、Cが信託によってAの財産の管理を行うとともに、ABの老後の介護も行うということはあると思います。なにも取り決めないこともあると思いますが、仮に、介護負担分などを考慮して、Cが遺産を多く引き継ぐと約束しても、生前における遺産分割協議は、法的には意味がないことになっています。

実現されるかわかりませんし、原則としてCDの相続分は2分の1になりますので、特に自宅の土地が遺産の割合を多く占めるような場合は、遺産分割がまとまらないことも想定できます。介護負担分を多くもらえる制度として寄与分がありますが、寄与分についても、実際にいくらになるかは、あまり明確には決まっていません。

そこで、信託を利用し、信託終了時に、残っていた財産を、Cは4分の3、Dは4分の1で遺産を分けるというったことや、価値の高い自宅はC、残り預金などはDが取得する、などの内容で、決めておくことができます。このように決めておけば、実質的にCの負担を踏まえた生前の遺産分割協議を、信託によって実現することができます。信託の財産管理の仕組みと財産の引継がれる仕組みをうまく利用することでスムーズな財産の承継を行うことが可能です。

孫などの教育資金を支給できる
3つめは、判断力が弱くなってしまっても引き続き孫などの教育資金を支給できる点についてです。
孫へ教育資金を援助したいと考えておられるケースですが、万が一、認知症など判断能力が低下してしまうと贈与ができなくなってしまいます。

そこで家族信託を活用し、贈与する資金を確保することが考えられます。
例えば、A、B、Cのような家族構成で、AがCに教育費を贈与したいとします。このような場合に、Aの預金の一部をBに託しておきます。こうしておくことで、Aが認知症になっても、Cの教育費が必要になる都度、BからCに現金を支給することができます。
これは、教育費などに関しては、祖父と孫の扶養義務の一環として、必要な都度、信託財産から孫に贈与することができますし、非課税で行うことができます。
一方で、使い道を限定しないいわゆる暦年贈与として、毎年100万円を贈与するということは、家族信託では、基本的にはできないとされています。より、複雑な内容の信託にすれば、認知症で判断力が衰えてしまった後でも、贈与を行えるような内容にすることも可能と考えられますが、信託財産の贈与に関しては思わぬ課税のリスクがありますので注意が必要です。

相続税節税の対策を実施できる点
4つ目は相続税節税の対策を実施できる点についてです。
信託すること自体に税務上の優遇はありませんので、信託が節税になることはなりませんが、判断力低が下してしまうと、財産を活用することができなくなります。

いわゆる資産凍結などいいますが、そのため、たとえば土地を活用したり、現金でマンションを買ったりといった、節税対策が一切できなくなります。この点で、家族信託をして、財産を子などが管理できる状況にしておけば、不動産などをうまく活用し、結果的に節税することができます。

特に計画が長期化するようなケースでは、早めに家族信託を活用しておくことで、途中で計画がとん挫するような事態を防止できます。現金など暦年贈与を継続したい場合は、信託ではなく、生命保険を活用した方法もありますので、これについては別の動画で解説させて頂きます。
共有による財産凍結を防止できる機能
5つ目は、共有による財産凍結を防止できる機能についてです。
共有というのは2分の1ずつなど、一緒に所有している状態をいいます。特に、不動産を共有すると、共有者同士で意見が分かれてしまったりというのが、起こりやすいトラブルです。売りたいタイミングで意見が揃わない、一部の人が自分の持ち分を第三者に売ってしまう、こういったことが、将来的に予想されます。そこで家族信託を活用すれば、これらの問題を一緒に解決することが可能です。

例えば、Aの子BC、Bの子Dのような家族構成で、Aの財産には、BDと同居している自宅兼アパートと、預金が少しあるとします。主な財産が自宅兼アパートですので、平等に分けるにはアパートを共有するか、売却する、そういった方法しかありません。だたし、Dがまだ幼いので、20になるまで住みたいといったケースがあるとします。
このような場合に、アパートの管理をBに託しておきます。そうするとAの判断能力が低下してもBの独自の判断で建替えや修繕が行えますのでアパート管理に困りません。また、A亡き後は、引き続きBが賃貸アパートを管理しつつ、BCがアパートの賃料収益を2分の1ずつ取得するように決めておけば、不動産の共有問題を回避しつつ、実質的に平等に引継ぐことができます。

そして、将来的にDが20になったら、Bの判断で自宅兼アパートを売却して、BC2分の1ずつ分けるように決めておけば、不動産の共有問題を回避しながら平等に分けることができます。
不動産を信託して、管理者を1人決めておけば、意見が分かれるといったトラブルを回避もできますので、このような点でも信託の活用が可能です。

以上、信託の有効活用方法についてでした。
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監修者プロフィール

- 司法書士
-
・大手金融機関主催の相続対策セミナー、相談会
・大手不動産会社主催の相続対策セミナー、相談会
・大手生命保険会社の相続専門員向け勉強会の開催
・自主開催の終活セミナー、相談会多数
これまでの豊富な経験に基づき、遺言作成支援、相続を中心に、個人のお客様向けに幅広い業務に対応させて頂くことができます。どうぞお気軽にご相談下さい。
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