公正証書遺言が無効になるケース

今回は、公正証書遺言が無効になるケースをご紹介します。公正証書遺言は、公証人と証人2人交えて厳格に作成した遺言ですから、無効にはならないと考えているかもしれません。

ですが、過去に無効になったケースは意外とあります。もちろん無効となる可能性は非常に低いですが、今回はそのポイントを解説させていただきますので、瑕疵のない遺言書作成などに是非役立ててください。

公正証書遺言が無効になったケースとして、主に以下のケースの場合、無効になります。

認知症などで遺言できない事情があった場合

公正証書遺言の作成手続きに瑕疵があった場合 

の主に2つです。

認知症などで遺言できない事情があった場合

まず1つ目の、認知症などで遺言できない事情があった場合というのは、遺言作成当時に、本人が遺言の内容を理解できていたのかギリギリ状態であったというケースになります。このケースが、無効になったという裁判事例の中では一番多いケースです。

遺言が正しく作成されるには、本人の意思が、結果的に、遺言書の形に現れる必要があります。ですので、前提として、遺言者は、遺言がどのような意味を持っていて、どのような効力があるかを理解できる状態である必要があります。

そのため、遺言書作成当時に、遺言者が認知症や精神上の障害があって、理解力が欠けていたとされると、無効になってしまいます。

実務では、本人の理解力がギリギリのタイミングで遺言書を作成するケースはよくあります。公証人は医師ではありませんので、本人と何度も面談し判断力を把握することはありませんので、十分な確認がされないまま、公正証書遺言が作成さるケースが考えられます。

したがって、このように作成された遺言は、公正証書遺言であっても、数年後、十数年後に無効になることが起こりえます。

そこで、公正証書遺言が無効になるかどうかは、遺言作成当時、遺言者がどのような状態だったかという点や、遺言書が複雑な内容か、などがポイントになります。

遺言書作成当時の病院の診療記録や看護記録といった客観的な記録に基づいて、本人が遺言書の内容を理解できていたと評価される必要あります。遺言書を作成直後に、症状が急変し、危篤状態になって病院に入院していたといった事情があった場合は、遺言書作成時に判断力に問題なかったのか疑われます。

その観点からしますと、遺言書の内容面も非常に重要になります。特定の相続人へ全財産を相続させるといった、一見シンプルな内容でも、財産が多くある場合など、事情背景によっては、相応の判断能力が求められるといった裁判例もあります。

また、遺言書が何回も書き換えられているケースでは、その前後の遺言の内容が、がらりと変わっている場合、そのように遺言書を書き換えた事情背景に不自然な点がないかなどもポイントとなります。

いずれにしましても、当時の診察記録などから、本人の判断力を読み取れるかが一番重要になりますので、後の紛争の防止として、可能であれば、遺言書作成時点での認知証診断などの記録を取り付けておくとが有効になります。

証書遺言の作成手続きに瑕疵があった場合

2つ目は公正証書遺言の作成手続きに瑕疵があった場合です。特に口授という手続きに反するケースになります。そもそも理解力を欠いていれば遺言は無効になるわけですが、口授を欠いていた場合も、方式に反するため無効になる可能性があります。

「口授」というのは、遺言者が口頭で遺言内容を公証人に伝えることをいいます。法律上、公正証書遺言を作成する際の正規の流れでは、まず、遺言者本人が遺言の内容を公証人に口頭で伝え、公証人がその内容を用紙に書き記す、というものになります。

ですが、実務の多くでは、専門職などが公証人と遺言書の内容を事前に詰めておき、作成当日は、公証人が遺言の内容を読み上げ、問題がないかどうか遺言者に確認する程度で終わることが多くあります。ですので、当日、たとえ遺言者が遺言内容を理解していなくても、「はい」と返事があれば、遺言書の作成を行うことが多いと思います。

一方で、遺言者はご高齢者であることが多く、その場合、遺言内容を最初から最後まで検討し、文章をスラスラと適格に話せるということは、基本的に少ないかと思います。

そのため、本人が口頭で遺言の内容を公証人に伝え、公証人がその内容を用紙に書き記す、というルールを厳格にすると、公正証書遺言の「口授」のハードルが高くなっていましい、ほとんどの遺言が要件を欠いて無効になってしまいます。

ですので、公証人が遺言内容を読み聞かせる方法で作成された公正証書遺言でも有効とされています。ただし、少なくとも、公証人が内容を要所で区切って読み聞かせて、本人に都度内容を確認し、「はい」などの返答を受けていた状況などが必要になると考えられます。

単に頷くなど顔を傾ける動作だけでは、口授があったとは言えないとされていますし、また、全文を読み上げた最後に、本人が「内容に間違いありません」と、答えただけでは、口授があったとは言えないという裁判の例もあります。

結局のところ、口授があったと判断されるためには、遺言作成当時、本人がどのような状態だったかという点や、遺言書が複雑な内容か、などがポイントになります。

実際に,有効とされた事例もあれば無効とされた事例もあり,ケースバイケースです。遺言書作成当時の病院の診療記録や看護記録といった客観的な記録によって、本人が遺言書の内容を理解できていたと評価される必要あります。

遺言が無効と思われる場合の流れ

最後に、遺言が無効と思われる場合の流れを解説します。

[ステップ1]

まず、遺言書が無効ではないか疑われる場合は、他の相続人と協議することが考えられます。

遺言は、有効無効にかかわらず、相続人全員の同意があれば、遺言の内容とは全くことなる遺産分割を行うことができます。これは、遺言が公正証書で作成されている場合も同様です。ですが、遺言の内容を無効にしたいという局面で、他の相続人と円滑に協議を進めることは、ほとんどの場合期待できないと思います。

その場合は、次にステップに進みます。

[ステップ2]

次に考えられるのが、家庭裁判所へ調停を申し立てる手続きです。

遺言書が有効か無効かについて、ほかの相続人と意見が対立してしまい、話し合っても結論が出ない場合は、家庭裁判所で手続きをします。

調停は、裁判官1人と2人の調停委員で構成されており、各当事者から事情や意見を聞いて、有効か無効かの助言を受けながら解決を目指します。

話し合いの結果、全員が納得すれば、無効という結果を導くことができます。 それでも、同意が得られない場合は、最後の手段として訴訟を起こすことになります。

[ステップ3]

最後、調停でも話し合いがまとまらない場合は、最後の手段として遺言書が無効であることの「遺言無効確認訴訟」を提起することになります。

以上、公正証書遺言が無効になるケースについてでした。調停や訴訟などに踏み切る場合は、相続専門の弁護士に相談しましょう。

監修者プロフィール

榎本亮冴
榎本亮冴司法書士
・大手金融機関主催の相続対策セミナー、相談会
・大手不動産会社主催の相続対策セミナー、相談会
・大手生命保険会社の相続専門員向け勉強会の開催
・自主開催の終活セミナー、相談会多数
これまでの豊富な経験に基づき、遺言作成支援、相続を中心に、個人のお客様向けに幅広い業務に対応させて頂くことができます。どうぞお気軽にご相談下さい。