家族信託って何?相続・認知症の対策に効果的な信託について解説

司法書士
榎本亮冴

司法書士の榎本です。今回は家族信託というテーマについて解説していきます。

家族信託は信託法の改正によって2016年頃から、段々と相続実務に関連して運用が進んできた、比較的新しい制度です。

家族信託が実務的にも普及してきた背景には、認知症対策に有効だからということになります。

そこで、今回は最も信託が活用される場面である、認知症対策の活用方法を中心に分かりやすく見ていきたいと思います。

認知症とは?

そこでまずは、信託を知る前に、認知症がどのような問題を抱えているかを理解する必要があります。

認知症というのは、本人の理解力や判断力が著しく衰退した状態をいいます。実務的には、会話ができない、質問への返答がないなどの意思が確認できない状態であれば、認知症と判断します。

認知症にはどんな問題がある?

認知症と判断した場合に、実務的に大きく問題となることを3つあげてみます。

1つ目は、本人が所有している不動産の売却ができなくなる点です。介護資金を捻出するために、所有している不動産を売却するケースはよくありますが、本人が認知症だと、契約ができません。

勝手に親族が話をすすめているケースもありますが、不動産の名義変更をする際は基本的に司法書士が関与しますので、不動産の所有者本人と会話ができない場合は、司法書士は手続きしてくれません。ですから不動産が売れないことになります。

2つ目は、本人の預金口座が凍結されてしまうことです。銀行は、トラブルに巻き込まれないように、本人が認知症だと判断した場合は、預金口座を凍結して、入手金の取引を一切停止します。以降は親族であっても引き出すことはできなくなります。

3つ目は、相続税の対策ができなくなる点です。不動産をいくつか持っていても、現金が少ないケースだと、相続税の納税資金を確保する必要がありますし、そもそもの相続税を減らすために、不動産を売却したり、アパートを建築したりといった対策で大幅に節税できることがあります。こういった対策も、本人が認知症だと不可能になります。

成年後見制度の問題は?

認知症となってしまって、本人と会話もまともにできなくなってしまった場合は、家族信託は活用できません。この場合は、本人所有の不動産を売却するのにも、凍結された銀行口座からお金を引き出すにも、成年後見制度の活用が必要になります。

成年後見制度は、家庭裁判所で本人をサポートする人を選任してもらう制度です。このサポートする人ことを後見人といいます。

後見人は本人の財産管理や身の回りの契約など、法律行為に関する権限がありますので、本人の不動産を売却したり、預金口座を下したりすることができます。

基本的には親族が家庭裁判所に後見人を選任してほしいと申し立てます。すると家庭裁判所が、状況に応じて後見人を選んでくれますので、選ばれた後見人は、本人の預金や不動産の管理を行います。

後見人は、その管理状況を家庭裁判所に報告することで、適切な管理が行われるような仕組みとなっています。

成年後見制度にはデメリット

ただし、成年後見制度にはデメリットがありますので3つ程あげてみます。

職業後見人の場合は報酬  ➡  毎月のランニングコスト
月額3万円~6万円 財産額による
ご本人が亡くなるまでやめられない
不動産の売却などは限定的 ➡ 相続税対策ができない

つまり、相続対策が一切できないということになります。後見人は本人の不動産を売却できるといいましたが、これは非常に限定的に許されるものになります。

売却しないと介護資金も捻出できず、本人にとってどうしても必要な場合だけできます。ですから、相続税を減らすために、アパートを立てるとか、区分マンションを購入するとか、こういった対策は、間違えば本人の財産を減らしてしまうことにもなります。

そもそも後見人の使命は、本人の財産を守ることですから、こういったリスクの伴う資産の活用は一切することができません。

事実上の資産凍結状態といった言い方もしますが、こうなると、相続税の対策ができませんので、数千万といった相続税が発生する場合でも打つ手がなくなっていまいます。

成年後見制度自体は、本人の財産を守るためには、非常に重要な制度となっていますが、このような極端な制限が逆に問題となります。

家族信託なら解決できる?

そこで、家族信託による対策を事前に行っておけば、これらの問題をすべて解決できるということになります。

家族信託は、家族に財産を信じて託すこと言います。

親(委託者)が子(受託者)に、自宅や賃貸アパート、預金などの財産を託しておくことで、親が重度の認知症になり判断能力がなくなっても、子の判断で財産を処分することができるようになります。

例えば、介護施設への入居資金を捻出するために自宅を売却することも、賃貸アパートの修繕や建て替えも、親の預金で区分マンションを購入することも、託された子の判断で自由にできます。

例えば、父の資産が自宅やアパート、現金があり、このままだと数千万の相続税が発生することが分かったとします。相続税節税対策として、不動産の買替とかアパートの大幅な修繕などを計画した場合に、長期計画になると、その間に父の判断能力が低下して計画が途中でとん挫してしまう危険があります。

この場合は、まずは父と長男で信託契約を結びます。信託契約には、どの財産を信託するのか、長男が不動産を売ったり、修繕したりできることなどを記載しておきます。

契約を結んだあとは、実際に子が財産を管理できるように、預金と不動産の名義を変更します。預金に関しては、子名義の信託口口座という口座を金融機関で開設して、そこに現金を入れて長男が管理します。不動産に関しては、父から長男への名義変更の登記をします。

あくまで信託として所有権が移転しますので、この時点で贈与税が発生することはありません。

基本的にこれで準備が完了です。あとは信託契約で定めた内容に従って長男は不動産や預金を管理することになります。自宅不動産を売却する際には、長男が当事者となりますから、父が認知症でも問題ありませんし、預金も長男名義の口座で管理しているので安心です。

これが家族信託です。

家族信託のポイント

家族信託のポイントをまとめると。

・認知症になる前に親子で契約しておく必要がある

・信託した財産を、託した家族名義に変更して管理する

・名義を変更するが贈与税などは発生しない

成年後見制度と家族信託の簡単な比較

最後に、成年後見制度と家族信託の簡単な比較をしたいと思います。

まず、権限の欄です。後見人は本人の預金などの財産管理権、不動産を売却したり、悪徳商法の契約を取消したりする法律行為の代理権、介護施設や本人が住むための賃貸借契約などを行う身上監護権があります。

一方で、家族信託では、託された財産のみ管理・処分を行います。ですので、本人の法律行為の代理や身上監護を行うことはできません。

次に、財産の処分範囲です。これに関してはこれまで見てきたとおり、後見人は本人のためになるような支出しかできません。一方で、家族信託は、信託契約を結ぶときに権限を事由に決めることができますので、いついつになったら不動産を売ってもいいよとか、この不動産は売らずに管理してねとかを事由に決めることができます。

以上、今回は、家族信託のメリットを中心に取り上げましたが、後見制度のように、本人を法律的に保護する必要がある場合もありますから、家族信託も成年後見制度も両制度も活用することもあり、どちらも一長一短と考えておきましょう。

ケースバイケースとなりますので、司法書士などの専門家に相談してから検討するようにしましょう。

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監修者プロフィール

榎本亮冴
榎本亮冴司法書士
・大手金融機関主催の相続対策セミナー、相談会
・大手不動産会社主催の相続対策セミナー、相談会
・大手生命保険会社の相続専門員向け勉強会の開催
・自主開催の終活セミナー、相談会多数
これまでの豊富な経験に基づき、遺言作成支援、相続を中心に、個人のお客様向けに幅広い業務に対応させて頂くことができます。どうぞお気軽にご相談下さい。